話題の映画、“The Cove”の試写会に行ってきた。信じられないほどの衝撃。最後まで釘付けの展開。見終わった後、涙が止まらない。久しぶりに出会った傑作。ドキュメンタリー映像作品ってこうあるべきだ、とうならせる作品。どこまでも情熱的で、自分の正義を貫くという信念が痛快。あぁ久しぶりにこんな逞しい環境活動家、リック•オバリーに出会ってしまった!
“The Cove”は今年公開されてから、物議を醸し出している作品だ。舞台は和歌山県太地町。ここや岩手県など合わせて、日本では一年間で2万頭のイルカが殺戮されている事実を、多くの人たちは知らない。捕獲されたイルカは、世界各地の水族館やイルカパークに売られ、残ったものはクジラ肉として販売される。撮影禁止の狭い入り江で行なわれる、むごいイルカ漁。海面はイルカの血で真っ赤に染まり、苦しみもだえてイルカは死んで行く。その様子を隠しカメラで丹念に記録し、日本で行なわれているイルカの殺戮を世界初公開したのが、この映画の神髄だ。
イルカ、そしてクジラの話になると、「イルカやクジラをとるのは、魚の漁獲量を減少させないためだ」「日本の伝統文化なんだから放っておいてくれ」と常に論争が始まる。特に日本では拒絶反応を示す人も多い。この作品では更に「イルカは食物連鎖の上位に位置し、水銀含有量が基準値より大幅に高いため食べると危険」という視点も論点として登場する。水俣病の歴史をまた繰り返すつもりか?と強い口調で訴え続けている。 「イルカよりもマグロのほうが水銀値が高いのではないか?」などと様々に飛び交うデータがある中で、自分の主張を判断することが難しいのも事実。
この映画を見た人の多くは、感情的に「イルカ漁反対!」と訴えるようになるに違いない。私自身は、以前ブログでも書いたように、やっぱり「環境捕鯨」とか「環境イルカ漁」というのは必要かもしれないというスタンスは変わらないのだけれど、この映画で何が一番感動したかと言えば、主人公のリック•オバリーの生き方だ。若い時は15年ほど、イルカの調教師の仕事をしていたが、ストレスを抱えたイルカが彼の腕の中で自殺したことをきっかけに、イルカを解放する、というこれまでとは真逆の活動を開始。以後35年間はコンスタントにイルカ解放やイルカ殺戮反対を訴え続け、今回の映画へと結びついた。人並みはずれた勇気、情熱、一貫した使命感。「僕はイルカを愛しているから、こんなことをしているんです。科学者ではありません」という、ある種子供じみた開き直りもあるのだけれど、それも含めてなんて純粋な人なんだろうと感じいった。
人を動かすのは、どんなに科学的に立証された事実ではなく、人の生き様だと思う。ドキュメンタリーと言っても色々な手法があるけれど、やっぱり人に焦点をあてて描いた作品が一番人の心をつかむと再認識した。
映画を見て、もう一つ感じた事。それはイルカに限らず、人間が生物や自然と自分たちを切り離さず、全てが関係性あるものとしてどう向き合って行くか、という最重要命題だ。結局、何でも同じなんだ。豚だって、牛だって、野菜だって、何だって、信じられないほどのケミカルが投入されて食卓まで運ばれ、体内に累積され、将来どんな症状が出るのかなんて誰にも分からない状況だ。農業や漁業、つまり私たちの食生活は既にグローバリゼーションと大資本企業にハイジャックされてしまった。イルカは一つの例に過ぎない。リックも言っていた。「太地町の小さな小さな入り江で行なわれていること。それは世界中で行なわれていることの、ほんの一例だ。」
この映画はイルカ漁反対の映画でない。イルカが乗り移り代弁者となったリックという男性の魂の叫びと、人間と地球のつきあい方を問う映画だと思う。一人でも多くの(特に日本人)が見るべき映画。世界中で旋風を巻き起こしています。そして舞台は日本です。
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