コスタリカ人23歳の挑戦 - Finca la Bonita

コスタリカ人の若者3人が始めた、パーマカルチャー・ファームに遊びにいってきた。標高1000メートルの気持ちいい風が吹く何もない山あいの高地を自分たちで切り開き、川から水をひき、木を伐採したりして家を建て、食べ物や燃料など暮らしに必要なものを作り、生産物を近くのマーケットで販売し、無理/無駄のない気持ちよい循環が生活の隅々にまで行き届いている、素晴らしい場所だった。やっぱりここでも、同じ志を持つ仲間たちが、こういうムーヴメントを作っていたのね!という嬉しい出会いだった。  

プロジェクトのスタートは、2011年3月11日。奇しくも、日本ではあの日、、、。地球の裏側では、こんなプロジェクトが始まっていたんだ。

 

プロジェクト・メンバーの一人、ホエルは、当時19歳。コスタリカの首都、サン・ホゼの大学で、植物学を勉強していたけれど、教室の中だけの授業にうんざりして、ドロップ・アウト。それでも親のためにと、大学のほかの学科で、哲学と建築学を学び直していた。「でも哲学は、哲学書を読まされるだけで、学校は自分自身の哲学を見つけ出すことには関心がない。建築学もコンクリートで作る建物とか、時代遅れの手法を学ぶだけ。これは違うんじゃないか」と思った。それなら「自分たちが描く未来の暮らしを、自分たちで学ぼう」。そう思ったホエルはいよいよ大学をやめ、エステバンとフェリーペという2人の兄弟とともに、南米4カ国を巡る旅に出かけたんだそう。

(一番右が、ホエル。真ん中が、エステバン。左のにーちゃんは、彼らの同級生のダニエル。サンホゼの大学で心理学を勉強中で、魂の成熟度がすばらしい青年!みんなほんとしっかりしている、コスタリカの23歳たち。)

 

旅の目的は一つ。「南米のパーマカルチャーと伝統的な暮らしや儀式を学ぶこと」。アルゼンチン、ペルー、ボリビア、チリでファームを訪れボランティアをしたり、先住民族の村で学んだ。旅の期間は一年間。帰国したら、自分たちのファーム作りを始める、と決めていたから。

2011年3月11日。旅を終えて帰国した3人は、山奥にある地に降に立った。小さな村からさらに鬱蒼とした森を分け入った4ヘクタールの土地。昔は牧草地に使われたこともあったけれど、何年も手つかずのまま放置された土地。ホエルのお父さんがずっと前に買ってあった土地だ。まぁ、やってみなさい、と息子に提供してくれた。ここに自分たちの家や畑や学びの場を、創って行こう。一つ一つ理解しながら納得しながら、楽しみながら、着実に。「パーマカルチャーで世界を変えようと思ったら、ただでなくちゃ」という信念どおり、お金に頼らない工夫を探して実践した。

"Reverencia"とは、「頭をさげ、敬意をもって接すること」。3人はまさにその通り、自然、そし慣行農法を実践する地元の農家たちとも良い関係を保ちながら、3年間、こつこつ積み上げて来た。「土地をならしたりする整備作業、それから家や納屋の建設作業。その後は、ガーデンづくり。地道な作業が続いたけど、いつも楽しむことを忘れなかったよ。どうせすぐに街に帰って行くだろうって最初は地元の人たちに相手にされなかったけど、今では僕たちがどんなオーガニックなやり方で農業やってるか、よく見に来るよ」。そのビジョンとエネルギーと継続力に、脱帽!

そしてそれから約3年。ここが山奥の何もない所だったとは想像もつかないほど、快適な素晴らしいファームに生まれ変わった。自然に働きかけながら、無駄にしない、無駄を出さない工夫をしながら、仲間たちと集い合いながら、心地よい自然のリズムがあふれるファーム。名前は"Finca la Bonita"(美しいファーム)と名づけた。何もないけど、必要なものはすべて整っている、豊かな場所。

今では敷地内でニワトリ(卵用)や牛(ミルク用)を飼い、養蜂もし、そればかりか農協(みたいな地域の集まり)にも関わり、村のオーガニック産物のマーケットも開拓して、コーン、マンゴー、ユカ、カカオなどを販売するまでに成長した。多いときには30人のウーファーが訪れ、私のような外国人もやってくる。「お父さんも認めてくれて、今では彼もファーマーになったんだよ!」とホエル。   

朝は午前5時には起床。朝日の中で、火をおこしたり、ヨガをしたり。大きく深呼吸。見渡す限りの山と木と鳥と動物達に囲まれてエネルギーを吸い込み、そしてたまったものを吐き出す。全てを受け入れ、感謝し、生きている喜びを全身に巡らす。みんなで朝ご飯を食べたあと、午前中は、果てしなく続く作業。ガーデンの手入れ、建材の切り出し、バイオガスの手入れ、昼食の準備などなどなど。全てが自然とつながった神聖な労働。 

昼食の後は、また作業したり、ただただのんびりしたり。近くの滝や池にもハイキングに出かけた。  

「僕たちには日本のように、独自の文化っていうものが、あんまりないんだ。500年前、スペイン人に征服されてしまったし、それ以前からコスタリカにはマヤやインカのような先住民族のカルチャーというのが色濃くなかった。だから僕たちが旅して学んで、それを新しくここで作って行くしかない。」

私が滞在していた間は、ホエルやエステバンの友達が手伝いに来ていて、20歳ぐらいの子たちとずっと過ごしていた。首都サンホゼから来ていることもあるのか、コスタリカの若者たちは英語がとにかくうまい。そんなに経験はなかろうに、賢くて、おじいちゃんやおばぁちゃんと話しているような安心感さえある。「君は何を信じてるの?」「ぼくは愛を信じてるんだ」というようなことを、惜しげもなく真っすぐな目をして語る。過去を振り返らず、未来を不安に思わず、今を楽しく生きるというマインドがしっかり機能している。いやぁー恐るべしコスタリカの若者たち。未来は確実に明るいね。 

中南米の面白いところは、日本やほかの国々にくらべて、バイオダイナミックス農法が浸透しているところ。ルドルフ・シュタイナーが提唱した農法で、月の満ち欠けなど宇宙のエネルギーにそって種蒔きをする。彼らもよく勉強していて、全ての作業は宇宙の動きとともにある。それから、パチャママ(自然、大地)や精霊たちへの畏敬の念が強く、火を囲み、神聖な儀式をおこたらない。私たちも火を囲み、ペヨーテというサボテンを食し、歌い、人間が本来もっている生きるパワーを取り戻し、人生を祝福した。「世界には、white, yellow, red, blackの人種がいる。今まではwhiteの時代だったけど、大地と結びつきの強いredの時代がやってくる。そして今の子どもたちは、clear buddha。全ての人種のいい所を取り込んだ、第5番目の新人類が、これからの世界を導くんだ。」 

Pura Vida。ピュアな人生。これがコスタリカでよく聞かれる言葉。挨拶がわりだったり、とにかく頻繁にPura Vida!と言いまくる。Finca la Bonitaは、確実にPura Vidaの精神が息づいている場所。自然や火との関係を紡ぎなおすことで、惜しみない愛を受け取れる安心感を得られる場所。コスタリカでまた一つの楽園を見つけた。 

最後に、星野道夫さんの「旅をする木」にあった神話学者ジョセフ・キャンベルの言葉を引用します。
「私たちには、時間という壁が消えて奇跡が現れる神聖な場所が必要だ。今朝の新聞になにが載っていたか、友達はだれなのか、だれに借りがあり、だれに貸しのがあるのか、そんなことを一切忘れるような空間、ないしは一日のうちのひとときがなくてはならない。本来の自分、自分の将来の姿を純粋に経験し、引き出すことのできる場所だ。これは創造的な孵化場だ。はじめは何も起こりそうにもないが、もし自分の聖なる場所をもっていてそれを使うなら、いつか何かが起こるだろう。人は聖地を創り出すことによって、動植物を神話化することによって、その土地を自分のものにする。つまり、自分の住んでいる土地を霊的な意味の深い場所に変えるのだ。」

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