アメリカ人のBetty Martinの「同意の輪」というワーク/コンセプトを知ってから、半年ぐらい。ずっと気になっていたし、日本語翻訳のものが見当たらなかったので、まとめてみました。
「同意の輪」(英語では The Wheel of Consent) の理論はとても簡単だけれど、とてつもなく深いです。彼女のサイトに動画付きでとてもよくまとまっているので、英語が出来る方はぜひ。ここでは日本語で、基本的なコンセプトを解説してみます。
特にマッサージセラピストや人の体に触る仕事の方、ヒーリングの仕事をしていたり興味のある方、コーチングなどをしている方、パートナーとの関係性、セックスライフを深めたい方、は、頭に入れておくと大変役立つはず。と言うか、これがはっきりしてこそ、意識的で自覚的なプレイも楽しめると言っても過言ではありません。いや、誰でもこれが分かっていると、「自分はどうしたい?されたい?」、つまり自分の欲していること(欲望や快感)や、関係性でYESかNOか、が明確になるので、生き方が調ってくるとさえ思います。
Bettyは「同意の輪」のモデルを体系化して、数十年経つベテランです。元々カイロプラクティックのボディーワーカーで、その後、セックスライフを促進するワーカーになり、様々なタッチや感情を観察する中で、編み出した「同意の輪」のコンセプトは、今や世界中で取り入れられています。ここで挙げたのは、ただの説明で、本当は実践することで体感が得られ、はじめて自分のものとなります。私もパートナーをはじめ、様々な人との関係性で実践し、自分軸がしっかりし、より意識的に人に関われるパワーを得ています。またワークショップ形式でも実践したいですが、とりあえずメモ書きとして解説。
「同意の輪」とは、上にあげた図のみです。この図を理解するために大切な概念は、たった二つ。
1. 誰がやっているの? who is doing the doing? (黒い矢印)
2. 誰のためにやっているの? who is it for? (赤い矢印)
ちょっと複雑に感じるかもしれないけれど、とても簡単。集中して考えながら、ゆっくり読み進めてみて下さい。
まず左上と右下の二つの部屋、「与える/受け取る」のダイナミックスを見てみましょう。これは、彼が彼女にマッサージをしてあげる、孫がおばぁちゃんの肩を叩いてあげる、親が子どもの背中を撫でてやるなどの時の関係性です。与える人と受け取る人のダイナミックスがはっきりしています。マッサージをする側、される側、肩を叩く側、叩かれる側という風に。そして受け取る側がギフトを受け取っているので、赤い矢印も、与える側から、受け取る側に向いていますよね。
この時、受け取る人は、自分が何を受け取りたいか、はっきりわかっている必要があります(これがなかなか実は難しいのですが)。そして与える(または仕える)人も、それをギフトとして心から送りたいのか、自分自身が確認する必要があります。
与える人の方から提案する場合、与える人は必ず、何かをする前に、それが受け取りたい人が欲しているギフトかどうか、確認する必要があります。「これをして差し上げたいけれど、どうですか?」「これをギフトとして、受け取りたいですか?」という風に。
そして受け取る人は、「必ず喜んでそれを受け入れる準備が出来ていること」。そこに何ら強要や我慢や不信感や無理がなく、進んで「ありがとう、お願いします。そのギフトを受け取りたいです」という心構えがあること。そうではなく「何となく心地悪いけど、申し訳ないから受け入れよう」とか「もしかしたら気持ちよくなるから、様子を見てみよう」というような思いがあると、ややこしくなってしまう。「同意の輪」からはみ出してしまっている状態です。
では次に、右上と左下の二つの部屋、「とる/許可する」のダイナミックスを見てみましょう。このダイナミックスは、恋人同士の関係性で発生することが多いけれど、例えば「小さな子どもがお母さんの顔や髪の毛を好きなようにいじくる、お母さんはそれをさせてやる」というような時にも当てはまります。なんとなく分かりますよね?
「とる/許可する」のダイナミックスは、こんな感じです。男性が女性に対し「足を優しく撫でてもいいですか?」と聴き、女性が「どうぞ、いいですよ(お受けしましょう)」と受け止める。この場合、男性は自分の心地よさのために女性を利用している、と言えますよね。そして女性は、それを不快に思わないし、喜んで自分の体を差し出している。
この場合、見た目は、男性が女性に何かしてあげているように見えるかもしれないけれど、実際は、女性が男性のしたいようにさせてあげている、女性が男性にギフトを与えてあげている訳です。それを表しているのが、「許可する」から「とる」の赤い矢印です。ここを履き違えないようにするのが、大切なポイントです。
同意の輪は、たったこれだけです。英語が分かる方は、Bettyの説明も聴いてみましょう。
上記の二つの例の中でも触れたように、これら全ては、Consent(コンセント)=同意の中で行われる必要があります。ただ単に「許可する」というだけでなく、喜んで心から与えたい、受け取りたい、したい(取りたい、味わいたい)、させてあげたい、という風に。
同意ができていない場合は、どうなるのか。大きな円の外側を見てください。与える側は、「リクエストもされてないのに、いつも与えてばかり(で、後になってからやってやってんのに!と爆発するケース)」ないしは奴隷の状態。受け取る側は「されるのに慣れていて、何の感謝の気持ちもわかない我がまま」。とる側は「許可なく奪うレイピスト」、許可する側は「いつも受け身で、されるがままの被害者」。つまりどこの部屋の近くにいても、同意の外側では誰もが楽しめていない、惨めで、人間性を失った状態。だから表現して、伝え合って、確かめ合って、常に同意の輪の中で行動することがとても大切な訳ですね。
ベティーは、「人生では、この4つの部屋の扉を開き、自由自在に各部屋のエネルギーにアクセスすることが大切。特にパートナーのいる人は、これが理解できることで、関係性が深まる」と話します。
どの部屋にいるかが自覚的に分かると、その時々の行動や感情が確かなものになり、ある種の安心や解放(あぁーこれでいいんだぁ。今、私は率先して、これをしてるんだな、と言う感情や感覚)が感じられます。なんだか自分が自由になった、すがすがしさみたいなものを感じるんです。
例えば、多くの人が慣れていないのは、「とる/する」の部屋です。男性が「女性の体を触りたいけれど、それは身勝手すぎる。だから『マッサージしてあげようか?』と歩み寄る」。よくある話しだけれど、下心たっぷりで、なんだか気持ち悪いですよね。そうじゃなくて正直に「僕のプレジャーのために、体を触らせて欲しい」と言って、「OK」となった場合、より男性は積極的に自信を持って行為に臨めますよね。女性はNGだったら、あるいはある程度されて、これ以上は no thank you だったら、それを言えばいいだけです。どちらも役割がはっきりしているので、混乱することなく、行為に従事できます。
たいていの場合はこれに慣れていないので、4つの部屋をウロウロしながら関係性が進んでいきます。だから感情もゴチャゴチャで、もつれてしまうわけです。
Bettyは、「同意の輪」は、関係性や人生のマイクロ・コスモス(小宇宙)と言います。それは何も、セクシャル・プレイに限ったことではないんですね。与える/仕えるのは、自分の行動が誰かの役に立ち、それだけで純粋に嬉しい、という奉仕の精神。受け取るのは、誰かの行動を心から受けれて「ありがとう」という完全なる受動、感謝の精神。何もお返しする必要がないし、とにかく心地よさを味わえる場所でもあります。とる/するのは、自分は何をしたいのか、欲しいのかをはっきりさせ、そこに全責任をおい、一貫性を持って行動する潔い精神。そして許可するのは、完全なる解放。こんな風に、どの部屋にいても、それは精神的な道であり、自分自身の生き方も関係性も深まっていくと言います。
「同意の輪」をプラクティスするために行われるのが、3分ゲーム(3-minute game)。
とても簡単です。質問は2つ。
一つは、「どんな風に触って欲しいですか?」 How do you want me to touch you?
もう一つは、「どんな風に触りたいですか?」How do you want to touch me?
1. 二人組になります。
2. 一人(A)が、もう一人(B)に「3分間、どんな風に触って欲しいですか?」と聴きます。Bは「そうねぇー、じゃぁ、肩を揉んでもらおうかしら」と言ったとします。Aは、それが本当に心からしたいかどうか考え、OKだったら、してあげます。もしAが心からしたくなければ、何ができるのか(例えば、肩だったら良いよ、じゃぁそれでお願いなどと会話をして)、お互いの良い行為を見出します。
(これは、割と簡単。与える/受け取るのダイナミックスですね。ただ、「どんな風に触って欲しい?」と聴かれて、自分がどうして欲しいか考えたこともなかった!と言う人もいるかもしれません。特に謙虚な日本人には多い!)
3. さて次の質問。今度は、BがAに聴く番です。「どんな風に、私を触りたいですか?」ちょっと変わった質問ですよね。そこでAは、考えます。「どんな風に触りたいだろう?」それを考えた上で「じゃぁ、足の先を優しくなでたいです」と言ったとします。Bは、「うーん、そうね。良いわ。でも膝下だけにしてね」などと言います。
(これは、不慣れな方も多いでしょう。とる/許可するのダイナミックスです。でも日常生活の中でも、わりとこの役割をしていることもあるんですね。それに自覚的になることが、この3分ゲームの真髄です)
これは何もパートナーでやる必要もないし、セクシャルなことじゃなくても、全然構いません。知らない人同士でやってみるのも良い。とにかく自分が4つの部屋のどこにいるかに意識的になること。質問は、「私に何して欲しい?」”What do you want me to do to you?” と 「私に何がしたい?」”What do you want to do to me? "と広げてもOKです。
同意の輪の中の4つの部屋を人は自覚的に行き来しながら、全ての部屋において喜びを感じながら、関係性や感情の交通整理をして、全てにおいて健全なパートナーシップを築く。そんな風により自覚的に周りの人と関わり人生を高めていくために、同意の輪はとてもパワフルなツールだと捉えています。
例えばその一つに、「自分が本当はどうしたいのか?どうして欲しいのか?どんなことをされるのが喜びか?どんなことだったら、喜んでさせてあげるのか?」と言うことをはっきりさせると言うことがあります。これは性的行為に限らず、人生全般において。自分の欲望、快楽、快感、心地よさ、満たしたいものー私たちはあまりにもそう言うことに無自覚だし、誰かが自ずと分かってくれると思い込んでいる節がある。
pleasure=快楽には、色々な種類のものがあるし、色々な程度(レベル)があります。それは性行為に全く限らない。でも、セックス は人間の基本的・根源的ニーズではないけれど、性的表現は人間の基本的・根源的なニーズです。自分の感覚を信頼し、正直に話すこと、どんなことでも表現することは、実は私たちの人生の充足度を決定するぐらい大きなことなんですね。そしてタッチも、基本的・根源的なニーズです。特に手は、人間の体の部位において、唇と性器の次に神経が通い、感覚が冴えているところ。でも私たちは、その感覚を感じる時間さえ奪われ、安心・安全を感じず、副交感神経はハイジャックされ、不感症になってしまっている。
だからこそ、まずは3分ゲームのようなもので、この「同意の輪」のコンセプトに慣れ、もっと自覚的に人とタッチでつながることを通して、関係性を取り戻し、調えていく。癒していく、呼び覚ましていく。私もまた一段と人生が豊かになったように、様々な人生の場面で、このコンセプトが役に立ったら、嬉しいです。
(ちなみに、真ん中に描いた「ピンクの輪」は、「The Wheel of Joy」(歓喜の輪)と呼び、関わる全ての人が自由自在に4つの部屋を行き来できるようなフローの状態を挿します。これは私のセクシャリティーの先生の後付けのタームですが、とても納得!一人一人が同意の輪の中にいて魂レベルで自由に振る舞っていると、何のストレスもなく、本当に歓喜の輪にいてみんなが高まり合っている感覚を味わえるものです)
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